ありきたりな展開ですが、少しでも楽しんでいただければ。
キャラクターの魅力を出し切れていればいいんだけど…なぁorz
「おいしい?」
あたしはその頭をなでながら、勢いよくごはんをほおばっているそれらをじいっと見つめている。
「帰ってきたときはびっくりしましたよ。一体何が起こったのかと思いました。
でもこれで全て終わったんですよね?」
「ええ、そうね。
デーモン達の始末も大変だったけど、この子達の方がもっと大変だったわ」
あたしは思わずため息ひとつ。
もうすでに明け方の時間、東の方から暖かい陽の光が射し込みだんだんと明るくなってくる。
ナーガを起こして戻ってきたあたし達は、今まで起こった事の全てをクレヴィスに話していた。
――明かりをつけた瞬間、あたしの目の前は真っ暗になった。
それは、勢いよく飛びついてきたそれらに視界を塞がれてしまったからである。
あまりにもたくさん飛びついてきたモノだから、あたしはそれらの重さに絶えられずその場に倒れ込んでいた。
ある者はかぷかぷと噛みつき、ある者はぺろぺろとなめてくる。
あたしはおなかを空かせた大勢の猫さんたちに囲まれていたのだ。
最初に聞こえていた鳴き声は、きっと見知らぬ者を警戒してのもの。
しかし、来たのが人間だと知ると、一斉にエサを求めてあたしに飛びついてきたのであろう。
となると、ここにいたにゃんこたちは人間に昔人間に飼われていたのかもしれない。
かわいいかわいいとそれだけで飼っていた飼い主達が、世話の大変さに挫けて捨てていったのか。
まったくもって猫たちにとっては迷惑以外の何者でもない。
あたしはこの状態をどうすればいいのか迷ったのだが、村に連れて帰るのが一番良いかもしれないと考え、ナーガを起こして事の成り行きを説明し、二人掛かりでこの大勢の猫さん達を運んで帰ってきたのだった。
あたしの考えたとおり、クレヴィス達は文句ひとつ言わずに応じてくれた。
そして今、あたし達が食べ残していたご飯をにゃんこたちに与えているというわけである。
帰ってくるのが遅かったから、いい加減冷めてしまっていてちょうど良かったのかもしれない。
「リナさん達の分はまた改めて用意しますね」
と、クレヴィスの天使のような一言を受け取って。
――結局、この事件に関してはこの猫達は何も関係なかったようで、あたしが見つけたのは 全くの偶然らしかった。
むしろ、関わっていたとしても全ては魔族の所為にして無視していただろうが。
――にゃーん――
お腹いっぱい食べたのか、一匹があたしの方へと近づきすり寄ってくる。
かわいい。
思わず抱いてぎゅううっとしたくなる。
「ともあれ、これで全部片づいたわ。
思ったよりも大変だったけどね」
実際これだけ動いたのだから、報酬が金貨十枚じゃあまったく割に合わない仕事だったが、まあたまにはこーゆー事もあっても良いか。
ご飯は思う存分食べれるんだし。
「本当に助かりました。まさかデーモンなんて物騒なものが近辺にいたなんて……」
「ま、それはもう心配しなくてだいじょぶよ。残らず片づけたから。
ただ、ちょっぴしその代償が大きかったけど」
「そうですね、仕方がなかったことですが、そっちはご本人に責任を取ってもらうと言うことで」
「じゃあ、そっちの方はよろしくね」
「わかりました」
今まで気付かなかったが、クレヴィスは、思ったよりもいい性格をしているようである。
表ではにっこり微笑んでいて、裏でどう思っているのか実に聞いてみたいところだ。
一見ごくフツーの優しい外見をしているが、気付いたら怖いことをさらっと言っているタイプらしい。
こういう場合、言っている本人にはあまり自覚が無いようなのだが、周りから見ればとことん怖かったりするんだけど。
あたしも少し驚いたが、いかんせん今まで会う人会う人変な奴が多いせいか、大して問題なかった。
――ああ、慣れって怖い。
「それじゃあ、ちょっと待っていてくださいね」
「おっけー」
店の中へと戻っていったクレヴィスを待っている間、あたしはご飯を食べているにゃんこと戯れて遊ぶことにする。
ま、お食事を邪魔するつもりは毛頭ないので食べ終わって満足そうにしている子達をなでているだけなのだが。
ちなみに、ナーガとは言うと、帰ってきてからずっと気絶したままである。
村に着いた後、頭の痛みを感じたナーガは自分の頭を触って倒れてしまったのだ。
どうやらぶつけたところから血が出ていたらしく、その血がついた手を見てしまったのだろう。
仕方無しに治療をかけて治しておいたが、しばらく彼女は目が覚めそうにない。
あとで彼女の反応が楽しみである。
「お待たせしました」
クレヴィスが布袋を持って近づいてくる。その胸にはいつの間に抱いたのか、一匹の子猫ちゃんもいる。
しかし、あたしはその光景を見て呆然としてしまった。
む、胸が……まったく無い。
子猫ちゃんを抱えてたクレヴィスの胸は思いっきりぺったんこ。 いくら胸の小さいあたしだって猫を胸に抱いていたら多少なりともふくらみは分かるはずである。
まさか……もしかして……もしかすると……
「クッ……クレヴィス?
あんた……もしかして男の子だったの?」
「えぇっ?リナさん、まさか女だと思ってたんですか?」
思い切って聞いてみたあたしの質問に答えたクレヴィスの返答は、思った通りだった。
「そりゃそうよ、だって顔……女の子にしか見えないし、声だって……結構高い声だったから……うえええええっっ!」
「男ですよ、正真正銘。確かにどちらかと言うと女の人に近い顔つきしてますし、声変わりもまだしていないので女の子といわれても何も言えないですけど……」
うあ、すっごい泣けてきた。
あれほど胸に関して勝ち誇っていたあたしは一気にその場に沈んでしまった。
「リ……リナさん?」
「あー……いい、気にしないで」
「は、はい」
クレヴィスはちょっとおろおろしていた様子だが、あたしが落ち着くまで黙って待っていてくれた。
「それじゃあ、これはお約束の報酬です」
「ありがと……」
未だに立ち直れていないが、そこは何とか持ちこたえて彼女――いや、彼から報酬を受け取る。
だが、いつまでも沈んでいてもしょうがない。
あたしは気力を振り絞って平静を取り戻す。
「それで、この子達のことなんだけど……」
「心配ないです。みんな、この村で飼っていきますから」
「そ、よかった」
「みんな動物好きの人たちばかりですから問題ないですよ。
食べ物には困ることはほとんどありませんしね」
「山……ああなっちゃってるけど、大丈夫?」
「ええ、心配いりません。ナーガさんに全部直してもらいますから」
本気だ。この子。
だけどあたしとしても、そうしてもらえると余計な奴が着いてこないので万々歳である。
「今日は、ここでゆっくり休んでいってくださいね」
後ろから掛かってきた女性の声に振り向くと、クレヴィスのお母さん――リディアさんがこれまたいっぱいの猫ちゃんを抱えてこちらへ来ていた。
「リナさん、この子を女の子だと思っていたみたいですね」
あたし達の会話をどこから聞いていたのか、同じテーブルのイスに腰掛けたリディアさんは、くすくすと笑っている。
「本気で思ってましたよ」
「そうね、初めて見た人は分からないもしれないわね」
「母さんまでそんな事言わないでよ」
「どう考えても女の子にしか見えませんって」
――事件が片づいて安心したのか、あたしたちのにぎやかな談話が続けられる――
「でもだいじょぶよ。まだ貴方も若いんだから、もっと成長するわよ」
「…………」
気付かれてるし……。
あたしの気にしていたことをさらりと遠回しに言う彼女。やはり血は争えない。
「……だといいんですけどね」
翌日、あたしはみんなに別れを告げて村を後にした。
いまだにクレヴィスが男だったというショックは無くなってはいないが、そんな事を考えてるより気楽に過ごしていた方が良さそうである。
絶対おっきくなってやる。
強い希望を心に抱いて。
風の噂によると事件以来、あの村はさらに有名になっているようだった。
特に猫好きの人たちに好まれているようで、世間に猫好きともっぱら有名な物書きのひとも、その村に移住していったとゆーほどらしい。
――ちなみに、残されたナーガがどうなったのかはあたしの知った事じゃない。
きっとあの二人にこき使われているのではないだろうか――
闇夜の声 おわり
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