今回と、その次でお話は完結します。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
「ナーガ!いつまで寝てるのよ」
ずぱこおおおおおん!
未だ気持ちよさそうにすやすやと寝ていたナーガの顔面にハリセン一発。
へぶっと声を上げながら、彼女は目を覚まし始めた。
「あいたたたた、何よひとが気持ちよく寝てるのに」
「何よじゃないでしょ。誰のおかげでこんな状態になったと思ってんのよ」
「何言ってるのよ。貴方がこうなるようにしむけたんじゃないの?」
う、余計なカンはやたら働く奴である。
だからといってここでたじろぐわけにはいかない。
「あたしが言いたいのはそんな事じゃあないわ、あれを見て」
そこにはゴーレム達の衝突で出来た瓦礫の山。
「暴走したあんたのゴーレム止めるのに、あたしがどれだけ苦労したと思ってるの?」
無論苦労したというのは大嘘である。
「山の中めちゃめちゃにした責任は取ってもらうわよ。
あれだけ呪文発動させて暴れといて、何も文句無いわよね?」
「私が何をしたって言うのよ」
ずいぶんと都合のいい忘れ方だなをい。
「これ全部あんたの仕業なのよ。まあ、一部さっきのデーモン達の攻撃の所為もあるけど。
ここら一体はほぼ全壊。ついさっきまで有ったはずの川も何処に行ったか分からない。たくさんあったはずの木々もちらほらとしか見あたらない。
これが暴走したあんたの仕業でなくてなんなのよ」
「…………」
「…………」
――しばしの沈黙――
ひたり――とナーガの顔から汗が出てきているのをあたしは見逃さなかった。
落ち着きがなく浮ついた彼女の目が、自分自身でそれを覚えていると言うことをばっちり伝えてくれた。
「……わかったわ。
で、わたしはどうするの?」
「ご飯抜き」
「リナぁぁぁぁっっっ!」
さらりと言ったその一言は、今のナーガにはかなりこたえたようだ。
ナーガは慌ててあたしに泣き付いてくる。
ま、あれだけ暴れた後だ、当然お腹はすいている。
運動後のご飯とゆーものは、いつもよりまた格別おいしく感じられるわけであって、丁度今のナーガの状態がまさしくその運動後にあたる。
帰ったらすぐにでもご飯にありつきたい気分なのを、いきなりご飯抜きなんて言われたら泣きたくなるのも当然である。
あたしだってそう言われたら、たまったもんじゃない。
小さい頃、父ちゃんと母ちゃんが用事で家を何日か留守にしていたとき、姉ちゃんの機嫌を損ねて1日飯抜きと言われたことがあった。
あたしは必死に姉ちゃんに頼み込んだが、首筋に包丁を突き付けられて泣く泣く諦めたのだ。
――あの時のご飯を食べれなかった悲しみは今でも忘れられない。
あたしはそれをわかっていてあえてナーガにそう言ったのだ。もちろん本気で。
はっきり言ってそもそもナーガさえいなければあのご飯は全てあたしが食べれていたのだ。
それなのにちゃっかりナーガも一緒になって食べてしまってはあたしが満足できるわけがない。
これで最初の予定通りお腹いっぱいにあそこの料理を満喫できるとゆーもんである。
「だいじょぶ、ちょっとご飯食べないぐらいじゃ死なないから」
「そんな事言わないで、お願いリナちゃん、ね?」
「駄目ったら駄目」
「しくしくしく・・・・」
ええぃ、泣くな。あたしは姉ちゃんに殺されかけてたんだぞ。
いじいじと地面に『の』の字を書いているのには、さすがに呆れ果ててくる。
ったくご飯が食べれないぐらいで大人気ない。
――さて、そんなことはどうでもよし。
もう全て解決した今、こんなところに長居は無用である。
あたしはくるりときびすを返し――
――はた。
いじけてるナーガを放っておいて、さっさと帰ろうとしたその時、あたしはある事に気がついた。
帰り道がわからなくなっている自分に。
それもそのはず。ここら一帯の地形は最初来て見たときと百八十度変わってしまっているのである。
せめて水の気配――川が残っていればまだ分かったかもしれないが、その唯一の希望は原型のカケラすら見当たらない。
浮遊で空から帰り道を探そうにも、この真夜中の暗さではどう考えても無理がある。
とゆーことは、明るくなるまでここで立ち尽くしていなければいけないのか。
イタイ、痛すぎる。
それだけは何とか避けたいところである。
だが、それを解決する方法が見当たらない。
自分の感と運に任せて歩いてみるしかないか……。
しかしその前に、期待なんぞは出来ないが、ナーガが帰りの方向を覚えているかどうか聞いてみる。
ナーガの方に向き直ると、未だ地面と向かい合っている彼女の姿。
こいつは……。
「いつまでもいじけてるんじゃじゃないの!!
ナーガ、あんた、村の方向がどっちだったか覚えてない?」
「……何よ?もしかしてわからないの?」
「誰かさんのおかげでね」
「わかるわよ」
おや、めずらしい。まあ、本当に覚えているのかまではわからないが。
ともあれ分かっているという以上、任せてみる価値はありそうだ。
間違ってたらしばいてやろ。
「だったら、さっさと帰りたいんだから早く行くわよ」
しかし、あたしのその言葉を聞いたナーガはしばし黙って考えこみ――
「ほーほっほっほ!誰が教えるものですか。
こうなったらわたし一人が先に戻っていってご飯にありつかせてもらうわ!」
「なっ……!
卑怯じゃないナーガ!あたしが道わからないのをいい事に自分一人だけ帰ろうなんて!」
「そんなのわたしの知ったことじゃないわ!
せいぜい明け方まで迷い続けることね!ほーっほっほっほ!」
「そんなの許さないわよ!」
あたしがナーガを止めようとしたその時
「明り!」
「しまっ……う……くっ!」
「ほーっほっほっほ!」
「ナーガ!待ちなさい!」
ナーガはあたしに『明り』を目くらましに放った後、高笑いをしながらあたしを置いて走り去っていった――
…………。
さて、これでよし。
あとはナーガの進んでいった方向に向かってあたしも行けばいいのである。
さっき、あたしは目くらましを食らったと見せかけていたのだ。
ああなる事はある程度予想済み。呪文を唱えてくる直前にあたしは目をつぶっていたのだ。
そして、ナーガを先に行かせ、その向かった方向にあたしが空から先回りして行くということである。
これならナーガより先に帰ってこれるし、裏切った彼女を思う存分いたぶれる。
一石二鳥とゆーヤツである。
「浮遊」
体を宙に浮かせた後、ふわふわとナーガの進んだ帰りの方向へ向かって進んでいく。
本当は一気に『翔封界』で行きたいところだが、ナーガが行ったすぐ後では、急に方向を変えられても困る上に、彼女に気づかれてしまう可能性もある。
途中まではナーガを泳がせた後、村が見えてきたあたりで一気に帰れば良いのだ。
あたしはナーガの影を見つけると、彼女に見つからない様、そのままゆっくりと後を着けていった。
――だがしかし、当のナーガの進んでいる方向がいまいちおかしい。
右へ行き、左へ行きと、あらぬ方向をずんずん進んでいく。
空にいるあたしから見れば、どう考えても迷っているようにしか見えないのだ。
さっきの行動からして、最初から知らないであたしにハッタリをかましたとゆーわけではなさそうだし……。
――てことは、進んでいるうちに本気で迷ったな。
今、彼女の頭の中は後悔の念でいっぱいだろう。
あたしにはどーでもいいことだが。
空から動いているあたしは、最初に向かっていた方向は見失ってはいない。
あたしはこのまま帰れば良いわけだ。
そう考えたあたしは、そのままゆっくりふわふわと帰路に着いていった――
「ひああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ〜〜〜!」
しばらくふわふわ進んでいっていると、ちょっとばかし後ろのほうから聞き覚えのある悲鳴。
声が近くから遠くになっていったのを考えると、きっとどこか崖にでも出て落ちたんだろう。
いいや、ほっとこ。
どうせナーガのことだから、生きて帰ってくるだろうと思ったあたしは気にせずに行こうとした。しかし、それと同時にふと何か気になったことがあった。
ナーガがどこかの崖らしきところに落ちたのはまず間違いない。
かすかだったが、落ちた衝撃の音もあたしの耳には聞こえている。
だが、その直後にまた別の何かが耳に響いてきたのだ。
何だろ……?
めんどくさいのは承知の上、それでも自分の好奇心は捨てられない。
結果的にナーガを助ける様な事になってしまうかもしれないが、それはあとで見返りを請求すればいいのだから問題ないだろう。
あたしはナーガの落ちていったであろう崖を探し向かっていく。
――まさかまだ生き残りがいたのだろうか?それとも別の何かか・・・?
どちらにしてもまだこの事件は解決していないと言うことなのだろうか?――
崖の下で気絶していたナーガを見つけ、ゆっくりと地上に降りていく。
降りてくる最中に響いてくる音。崖の下に近づくにつれその音はだんだん増してくる。
うおおおおおおおおんんん
あたしが地上に降り立ったとき、その音は今までで一番大きくなっていた。
ナーガの方に近寄ると、どうやら落下途中にでも打ったのであろう、彼女はあたまの上に大きなたんこぶを作って気絶していた。
その姿があまりにも笑えたので、しばらく放っておくことにする。
あたしは先に音の聞こえた方へと向かっていく。
崖の奥へと進んでいくと、岩に隠れたところに大きな空洞が見つかった。
奇妙な音はここから響いてきているようだ。
あたしは足音をなるべく立てないようにして中へと向かっていったが、その音――いや、むしろ鳴き声のようなモノは空洞の中と言うこともあり、近づくたびにだんだんとその数と大きさを増していく。
うわああああああんんん
うおおおおおおおおんんんん
うなああああおおおおんん
だんだん、だんだんとその鳴き声ははっきりと耳に響いてくる。
うみゃああおおおおおんん
――ん?
うにゃああああおおおおんん
みゃああああおおおんん
――あれ?
「みゃあ?」
まさか――
空洞の一番奥へとたどり着いたあたしの見た光景は、とても信じられないもんだった。
「まさかとは思うけど、これが事件の大元だったり……しないわよね……?」
はっきりと確認するため、あたしは「明り」の呪文を唱える。
しかし、その瞬間、あたしの目の前は真っ暗になっていた――
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