ここに書くことなくなってきたんだ、うん……orz
店を出てきてからほんの少し進んだ後、あたしは少し体に違和感を覚えていた。はて?単なる気のせいだろうか、心なしか少し体が重い気がする。
うーん……そんなにごはん食べたっけかな?
なにはともあれ、今は一刻も早く村を出て山に向かう為に、あたしは口の中で呪文を唱え始めた──
「翔封界!」
風の結界が周りを包み込み、あたしの体は勢い良く前方へと進んでいく。
だが、やはりいつもよりも重い感じがしてならない。
ずざざざざざざ……!
ふと、後ろの方から聞こえてくる音に気が付いて振り返ると、そこには引きずられて気絶していたナーガの姿。
あたしの手にしっかりと首根っこを捕まれたままで。
あ、そう言えばナーガのことすっかり忘れてた……。
あれからずっと引っ張ってきてたんだっけ。
んまあ、ちょうどいいから山に入るまでこのままでいてもらおうっと。
あたしはそのままかまわずに、重いのを我慢しながらナーガを引きずって先に進んでいった。
「──ここら辺まで来ればいいかな?」
村がほとんど見えなくなってからさらに先に進んだあたり、ちょうど山のふもとのところで、あたしは高速飛行の術を解除し、その場に降り立った。
あーしんどかった……。
何しろ気絶しているナーガを引きずりながらである。重い事この上ない。そのせいで思ったよりもここまで来るのに時間かかっちゃったし。
当人のナーガはいまだに気絶したままである。
ったく……引きずってたのは最初のうちだけだったっていうのにまだ回復しないでやんの。
ナーガには聞きたいことがたくさんあるのだ。
あれからすぐに引きずるのをやめて浮かせて進んでやった方の身も考えて欲しいもんである。
「さてと……」
あたしはそーっとフトコロのザックからあるモノを取り出した。
それを手に持ち、極力殺気を殺してナーガの方にゆっくりと近づいていく。
もうすでに、気絶してるようにはとても見えないほど気持ちよさそうな顔をしているナーガに向かって、あたしは大きく息を吸い込みそれを振りかざす!
「いつまでくたばっとるんじゃおのれはーーーっ!」
すぱあああああああああん!
ぎゅっと力強く握られたハリセンは、思いっきりナーガの顔面にたたきつけられた。
「……ったいじゃない!何するのよ!リナっ!」
今ので勢いよく起きあがったナーガはあたしに向かって抗議の声を上げてくる。
「あんたがさっさと起きないからよ。
……ったく、運んでくるこっちの身にもなってみなさいよ。」
「いきなり人のこと引っ張ってきておいて、それはないんじゃないの?」
「そりゃその場のノ…………すっ…過ぎたことはもうどうでもいいじゃない」
ジト目でにらみつけるナーガの言葉に対して、あたしはちょっとたじろいで返事を返す。
あ、危うい危うい……ついその場のノリって言おうとしてしまった……。前にナーガにいろいろ言ったばっかりだから突っ込まれちゃたまらない。
「そんな事よりもナーガ!一体どういう事?」
「どういう事って何がよ?」
上手い具合に話をそらされた事には気付いてない様子でナーガはあたしに問いかけてきた。
まあ、あたしはこれが一番聞きたかった事だから結局はこうなってたし。
「何がって……さっきからめちゃめちゃ聞こえてくるこの声の事に決まってるじゃない!」
そう──あたし達の耳には、さっきからずっと得体の知れないうめき声とも雄叫びとも取れるような声が響いているのである。
村に聞こえてきてた声はナーガが原因だったはず。
それならこれは一体──
「知らないわよそんなの。
私がわかるわけ無いじゃない」
あたしとナーガは会話をしながら、その声の発しているヤツがいるだろうと思われる方向に向かって駆け出している。
夜のしかもこの闇である。声は反響してどの方向から聞こえているのかはっきりとはわからない。
だが、あたし達がテキトーにカンで向かっている方向は、どうやら間違ってはいないようである。
そのまま走る速さをゆるめずに進んでいくと、少しずつその声は大きくなっていった。
そして──その声がどんなものだか聞き取れるようになってきた頃、唐突にナーガが声を上げる。
「あら?この声確かどこかで聞いたような……」
確かに、あたしも今までに聞いたことのあるような気がしてならない。
さらに、これまた良い予感なんてモノは全くと言っていいほどない。ナーガとはまた違った別の意味で、嫌な予感がする……。
またやっかいなことにならなきゃいいけど……。
だが、今までナーガがからんできた事で何にもなかったなんて事はただの一度もないわけであって──
──はあっ──
「あ、思い出したわ。リナ」
半ばあきらめかけた時、ナーガは手をぽんと打ち納得した様子であたしに話しかけてきた。
なんだか聞くのヤなんだけど……。
「何?どういう事よ一体」
「ふっ。つまりこういう事よ。
私がここら辺で毎日この美声を響かせていたら、どこの誰だか知らないけど張り合うようにして声を上げ出してきたのよ。
だけどまだまだ甘いわねって思って格の違いを見せつけてやるためにさらに声を高くしていたわね、確か」
「そおいうことは早く言えーーーーーー!」
ずっぱああああああん!
めこっ
あたしは念のためにまだ手に持っていたハリセンを、ナーガのどたまに向かって思いっきり叩きつけた。
その勢いがあまりにも強かったせいか、ナーガはそのまま顔を地面にめり込ませる。
「仕方ないじゃない。日数経ち過ぎててそんな事すでに気にならなくなっていたんだもの。
ふっ。私の耳には私の声しか聞こえていなかったわ」
相変わらず速い回復力でむっくりと起きあがったナーガはすでに開き直っている。
こ、こいつめ……。
「んじゃあ、なんであたしがここに来た時は聞こえなかったのよ?」
「そんなの、わたしに聞かれたってわかるわけないじゃないの。
あなたが見境無しに攻撃呪文使うから驚いてその日は出来なかったんじゃないの?」
「誰がいつ見境無しに攻撃呪文ぶっ放したってのよ。
あんときはナーガに向けてしか呪文使った覚えはないわよ!あたしはっ!」
「そうだったかしら?
そんな細かい事いちいち覚えてなんかいられないわ」
「あーはいはい。もういいわ、その事は。
そんな事よりっ!あの声よ!」
もう声の聞こえる場所からはそう遠くないところまで来ているはずである。
あたしとナーガはさらに走りを速めて奥へと進んでいったのだった──
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