というわけで、誤字脱字は以下略。
「うーん、なんど食べてもおいひいわー」
クレヴィスのお母さんが作ってくれた、たあっぷりのごちそうをほおばりながら、あたしはうなずいていた。
舌がとろける、ほっぺが落ちる。
こおんなにおいしいゴハンをこんなにたくさん、しかもタダで食べれるなんて、あたひはなんて幸せ者なんだろう。
「ほーんと、おいしいわね、ここの料理。
あ、おばさま、こっちにウォッカ、追加してくださらない?」
しあわせに酔いしれっているあたしのすぐ隣で、ナーガがまたお酒を頼んでいる。よくもまあ、そんなにアルコールの強いお酒をがばがば平気で飲めるもんだ。
そしてさらに、こいつもちゃっかりとごはんを食べていたりするし……。
――あのあと、あたしとナーガは村へと帰り、クレヴィスに報告。
もちろん、原因がナーガって事は口には出さない。
だが、あたしがうまくごまかして、カタはついたと説明した後、ナーガは行動にでてしまった。
「ところでリナさん、そちらにお連れの方は……?」
「単なる知り合いよ。
山に行く前に、たまたま会っただけ」
むろんこれは嘘。
ナーガとは、バッチリ山ん中で会っているのである。
「ついて来るって聞かないから、仕方なく連れて来ちゃったんだけど……」
「ほーっほっほっほ!
この白蛇のナーガ様が、今回のこの事件に関して、リナの手助けをしてあげたのよ!」
何を言う。もともとの原因が。
……って待てよ……。
「そうなんですか。
わざわざ有り難うございました」
「そうなのよ。
ほーっほっほっ……」
づぼぎゃぁぁぁ!
人の言ったことも忘れて、高笑いをかまそうとする(もうかましちゃってるけど……)ナーガに、あたしの一撃が炸裂する。
そして――
あたしが思いっきし放った右フックは、まともに彼女の顔にめり込んだ。
「クレヴィス、悪いんだけど、ちょっとだけ待っててくれる?」
かなりぼーぜんとした表情のクレヴィスにそう言って、あたしは今のフックでのびているナーガの足をずりずりと引きずり食堂の奥へと出ていった。
「ナーガ!あんたどうしても村の人達や役人に突き出されたいようねぇ」
「そっ……そんな事ちっとも思ってないわよ……」
あたしのものすごい剣幕を見て、冷や汗を垂らしながら答えるナーガ。
「んじゃあなんでよりにもよって、クレヴィスの目の前で高笑い上げようとするわけ?」
「あ、あれはその場のノリってやつよ」
「ほっほう、それじゃあ『思わず高笑いしちゃった。てへっ』って言ってそれで済むと思ってんの?」
「それはあなたが何とかするのよ」
めしっ。
素早くはなったストレートが、きれいにナーガの顔にめり込む。
「冗談じゃないわよ。
あんたなんかをかばう必要なんて、あたしにはこれっぽっちもないんだから」
「でも今は必要なんじゃないの?」
うっ……そうだった。
実際、あたしはこうしてクレヴィスから離れてナーガと話をしている。
知り合いだ、なんて言ってしまった以上、ここでバレてしまってはあたしの身も危うくなってくる。
クレヴィスたちとの信頼もなくなってくるし……。
そうなるのだけは防がなくては!
「まあ、過ぎたことは仕方がないわ。
とりあえず、ごまかし通さなくちゃいけないんだからあんたもそれにちゃんと合わせるのよ。
くれぐれも、高笑いなんかするんじゃないわよ。
この件がなにもかも全部済むまでに、ほんのちょっとでもしようもんなら、ほんっきであんた殺すから」
「わ、わかったわ」
(以下略)──とゆーわけで、今に至る。
戻ってきた頃には、もう夜遅い時間になってしまっていたので、次の日にごちそうしてくれると言う事になっていたのである。
ま、クレヴィスのおかーさんが、いいと言ってくれてるんだから、ナーガが一緒にごはんを食べてたってべつにいい……いや、よくない。良いわけがない。
なにしろ、あたしが独り占めできると思っていた料理が、半分はナーガに食べられてしまっているのである。
あたしにとってこれほどたまんないことはない。
ナーガのヤツ……まさかここまで考えて行動してたんじゃないだろうな……。
そうだ!そうにちがいない。今決めた!あたしが決めた!うぉにょれナーガ許すまじ!
あとで覚えてろよ……。
とにかく、今はどんどん運ばれてくる料理を食べることに集中せねば!
のんびりしてたらさらにナーガに食いっぱぐられてしまう。
「あぁ、ひあわへ〜」
幸せを胸一杯に広げながら、あたしははむはむと料理を口に運ばせる。
その隣で、お酒を飲みつつ、もしゃもしゃとナーガが食べている。
──そんな状態がしばらく続いていたとき、それは突然起こったのだった──
うおおおおおおおん
何かがうねりを上げた。
ふと何かを思い当たり、あたしは食事を中断して耳を澄ませてみる。
「どうしたのよ、リナ」
「しっ!だまってて、ナーガ」
クレヴィスたちはまだ気付いていない。急に食事を止めて黙り込んでいるあたしを不思議そうに見ているだけである。
しばらくの沈黙(ナーガを覗く)の後、それは再びうねりを上げる。
あたしの耳は、その音をはっきりととらえていた──
「ナーガ!行くわよっ!」
「ん?……んぐっ!」
ずががががががが……………!
クレヴィスたちが気付くより一瞬早く、あたしはダッシュを掛けて店の外へ走り出す。もちろんナーガを引きずりながら。
ナーガが食事をしてようが口の中にモノを含んでようがお構いなしである。
んなことはあたしには関係ない。
「クレヴィス!すぐに戻ってくるから、そのゴハンそのままにしておいて!片づけたら怒るわよ!」
そう言い残し、あたしはそのまま村の外へと向かっていった──
タグ:短編